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「すごいですね。英語ペラペラなんですね。」
とよく言われます。「そうなんですね。国語の先生なんですね。」と同じくらい日本語教師あるあるです。
そして…
「いえいえ、そんなことはありません。英語ができなくても日本語教師はできるんですよ。」
と説明しないといけないのもまたあるあるです。
この会話を見ていただくとお分かりのとおり、英語力は日本語教師に必須のスキルではありません。
では、日本語教師に英語力は全く必要ないということなのでしょうか?
- 日本語教師に英語力は必要なの?
- 英語ができないと日本語教師になれないの?
- 英語ができると日本語教師にとってどんなメリットがあるの?
- 日本語教師に求められる英語のレベルはどれくらいなの?
こんな疑問をお持ちの方のために、この記事では、「日本語教師にとっての英語力」について解説していきたいと思います。
日本語教師に興味を持っている方、これから日本語教師をめざそうとしている方、まさに今勉強中の方に少しでも参考になればうれしいです。
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「日本語教師に英語力は必須ではない」といわれる理由
日本語教育の世界では、
「日本語教師に英語は必須なスキルではない。ただし、英語力があるに越したことはない。」
とよく言われます。
まずはその理由について解説します。
日本語教育の手法は「直接法」が主流
日本の学校教育では、英語の授業は教師が「日本語で英語を教える」のが一般的です。
この手法は、学習対象の言語(英語)を媒介語(英語以外の特定の言語)で教えることから、「間接法」と呼ばれています。
一方で、日本語学校など異なる母語を持つ学習者が集まる現場では、教師が英語などの特定の媒介語で日本語を教えると、学習者の英語力の差によって理解の違いが生じてしまう恐れがあります。
これを防ぐため、日本語教師は日本語で日本語を教えます。
この媒介語を介さずに「日本語で日本語を教える」手法のことを日本語教育では「直接法」と呼んでいます。
多国籍の学生が集まる日本の大学や日本語学校など日本語教育の多くの現場では直接法が採用されています。
このように多国籍の学生が集まる現場において、日本語教師は英語を使用する場面がないため、「日本語教師に英語力は必須のスキルではない」と言われるのです。
このため、英語ができなくても日本語教師になることはできます。
しかし、日本語教育のすべての現場で直接法が採用されているわけではありません。
間接法が採用されている現場では当然英語力が必要になります。
また、間接法が直接法に劣っているというわけでもありません。
では、直接法と間接法は何が違うのでしょうか?
次に解説します。
直接法と間接法の効果の違いとは
直接法と間接法は言語学習において異なる効果を持っています。
直接法は、学習者が対象言語を直接使用して学ぶため、言葉と意味の結びつきを直接的に理解することができます。
これにより、学習者はより自然に言語を習得し、会話やコミュニケーションのスキルを早く身につけることができると考えられます。
また、学習者は対象言語と母語との間の違いについて不明点などがあった場合、自分で考えたり調べたりする習慣ができます。
こうして主体的に課題を解決するプロセスを経験することができるため、自主性や自己学習の意欲を高める効果も期待できます。
一方、間接法は母語を介して文法や語彙を習得します。
対象言語の文型や単語の意味を母語と置き換えて理解することにより、直接法と比べてより早く理解に結び付くと考えられます。
また、文法や語法などの体系的な知識を習得するのに適しているとされ、言語理解をより深めることができるのも間接法のメリットです。
このほか、間接法は習得した知識を他の言語にも応用しやすくなるという考え方をすることもできます。
このように、直接法と間接法は言語学習においてそれぞれ異なる効果があります。
日本語教育においては直接法が主流となっていますが、どちらが優れているということではなく、日本語教師は直接法と間接法の特性を理解したうえで、学習の目的や状況に応じて使い分けることも重要です。
英語力が不要というわけではない
これまで日本語教育の現場における教育手法と大きな2つの手法の違いについてみてきました。
「日本語教師に英語力は必須ではない」というのはある意味確かです。
ただ、「日本語教師には英語力は不要」というわけではありません。
日本語教育の多くの現場では直接法が主流であるのはまぎれもない事実ではありますが、決して英語が必要ないということではなく、特定の場面や状況において英語力が求められることがあります。
では、どんな場面で英語力が必要とされるのでしょうか?
日本語教師に英語力が必須な場面とは?
日本語教師が英語力を求められる場面について、解説していきます。
欧米では間接法が主流
日本語教育の多くの現場では直接法が採用されていますが、例外的に、欧米(特に英語圏)では間接法が多いです。
欧米でも日本語を学ぶ場は多種多様ですが、その多くは学校教育の現場です。
日本語教育の現場の多くが学校教育の現場であることから、日本人が学校で英語を学ぶのと同様に、間接法の手法が採用されます。
このため、欧米(特に英語圏)の国で日本語教師として働く場合には、英語力は必須のスキルになります。
また、アジアでも、フィリピンやマレーシア、シンガポールなど英語を公用語とする国でも同様に英語力が求められます。
欧米以外でも海外で働く場合は必須
それでは、英語圏以外の国であれば英語力は不要なのでしょうか。
海外で日本語教師として働く場合には、英語力が役立つケースがあります。
直接法の現場でも英語が役立つケースがある
海外の現場で教える場合、対象の学習者の母語は基本的に1つです。
これは国内の日本語学校の留学生が異なる母語であることとは状況が違います。
それでも、特にアジアを中心とした非英語圏の多くの国では、直接法が使われていることが多いです。
こちらも各国の言語政策の違いにもよりますが、非英語圏の国では、第一外国語として英語をすでに学んでいることが多いです。
教師が現地語に堪能である場合を除けば、英語が教師と学習者の共通の言語となります。
概念的な語彙は英語に置き換えて教えたほうがより本質的な意味を正確に理解することができる場合もありますし、難しい文型について補足的に説明したりする場合にも英語は役立ちます。
英語は学習者との関係性を築くのに便利なツール
また、授業以外の日常的な場面で、学習者と英語を通じてコミュニケーションをとることができれば、互いをより深く理解しあえることで、信頼関係を築くこともできるでしょう。
日常生活でも英語は役立つ
海外で働くということは、海外で生活するということです。
生活するなかで、文化・習慣・ルール・マナーなどあらゆる生活の場面で日本との違いに驚いたり戸惑うこともあるでしょう。
特に生活にまだ慣れていない時期は、その違いに不安になることもあります。
現地の人とのコミュニケーションがうまくいかないことがストレスに感じることもあります。
非英語圏の国では、英語が満足に通じる環境にないところもありますが、空港やホテル、観光客向けの飲食店などでは英語が通じるケースも多いです。
また、英語があまり通じなくても、日本語で伝えるよりは英語で最低限の意思疎通を図ることができます。
現地語である程度のコミュニケーションができるようになるまでは、生活をしていくうえで英語がとても助かるツールになるでしょう。
大学院に進学し、研究者をめざす場合
日本語教師のキャリアアップの1つとして、大学院に進学し、日本語教育について研究するというルートがあります。
場合によっては、そのまま研究者として働くという選択肢もあるでしょう。この場合、英語力は必須のスキルになります。
英語の文献を読める英語力は必須
いくら「日本語」教育とはいえ、日本語は世界に数えきれないほどある言語の1つにすぎません。
研究分野によりますが、日本語教育を研究する場合においても、英語の論文や文献を読める英語力は必須といえるでしょう。
英語で論文を執筆したり、国際的に発表する場面もある
さらに、英語力があれば、英語で論文を執筆したり、研究成果を国内外に広く発信したり、国際的な学会で発表することもできます。
国際的な共同研究や学術交流の場においては、英語を活用してコミュニケーションを図ることが一般的です。
研究者としての活躍の領域が広がる
このように高い英語力を身につけることは、自分の活動の場を大きく広げるチャンスになります。
将来的に大学院に進学する希望があるのであれば、日本語教師としてのスキルを高めることはもちろん、日頃から英語力を養う努力を積み重ねていくことは非常に重要です。
日本語教師に英語力があったほうがいい場合とは
「私は、海外で働くつもりもないし、研究者になりたいわけでもないから、英語はできなくてもいい」と考える方もいるでしょう。
確かに、国内の現場で教える場合、基本的には直接法で教えることになるため、必ずしも英語力は求められないでしょう。
ただ、その場合でも、一定の英語力が必要だったり、英語力があったほうがよい場面があります。
日本国内で英語力が求められる場合もある
国内の日本語学校(法務省告示校)では基本的に直接法で教えるため、英語力は必須のスキルではありません。
しかし、実際には、日本語学校の採用試験で英語力を試される試験が課されることもあるようです。
特に、欧米出身の学習者が多い学校では、採用要件に英語力が求められる傾向があります。
このため、たとえ国内の日本語学校で働くことを希望している場合でも、英語力があると有利に働く可能性があります。
また、国内の日本語教師の就職先は日本語学校だけではありません。以下の現場では英語力が求められるでしょう。
- インターナショナルスクール
- 外資系企業
- 欧米在住の学習者を対象としたオンライン日本語教師
このように、たとえ日本であってもフィールドによっては英語力が必須となる場合があります。
また、採用要件に英語力がない場合でも、履歴書に英語の資格スコアを記載することで、英語力をアピールでき、就職活動を有利に進められる可能性もあるでしょう。
なお、インターナショナルスクールの外国人児童に教える場合は、英語力のほかに学校の教員免許が必要となるケースがあります。
初級の学習者には英語を使うこともある
国内の日本語学校では直接法を用いて日本語を教えます。
その際教師は、「既習の文型・語彙のみを使用して教える」という原則的な考え方があります。
このため、新出の文型・語彙は既習の知識で説明したり、絵カードやジェスチャーで意味を導入することになります。この手法は、文法積み上げ型とも呼ばれています。
直接法の現場でも時には英語を使うことも
とはいえ、なかには、日本語の知識が全くないゼロベースの初級学習者も多く存在します。
このケースでは、直接法だけでは限界があり、必要に応じて英語を使用する場合もあります。
また、中級以上の場面でも、場合によっては英語を使って日本語の意味や文法を補足的に説明することで、学習効果を高めることもありうるでしょう。
英語で教えるほうがいい場面もある
学習者の母国での教育環境にもよりますが、多くの非英語圏の国では、第一外国語として英語を学習しています。
個々の英語力の差はあれど、同じ空間にいる学習者の多くが理解できるレベルの英語であれば、英語を使って教える場面もでてくるのが現状です。
むしろ英語を使ったほうが、よりシンプルにわかりやすく導入できる場合もあります。
英語力があれば、教え方のバリエーションが増える
「頑なに英語を使わない」という教え方もありますが、教師に英語力があれば、状況に応じた教え方のバリエーションが増えるのは事実です。
このため、直接法の現場でしか教えない日本語教師でも、「英語力はあって損はない」のです。
日本でも大学で教える場合は必要
日本の大学で留学生に対して教える場合も英語力はあったほうがいいです。
大学内の共通語はあくまで英語
私たち日本人が海外の大学に留学したい場合、たとえ希望の留学先が非英語圏であっても、TOEFLやIELTSのスコアが一定以上求められるのと同じように、海外の学生が日本に留学する場合にも一定の英語力が必要となります。
そのため、留学生たちの英語力はある程度高く、日本の大学においても留学生たちの間の共通語はあくまで英語です。
留学生たちが日本に留学する目的は、日本の文化・伝統・スポーツ・音楽・アニメの研究などさまざまで、彼らにとっては日本語学習はむしろ研究のためのツールでしかありません。
日本語の授業では頑張って日本語しか話さない留学生も、授業以外では英語が飛び交うのが大学の環境です。
日本語の授業で英語が飛び交うことも
場合によっては、日本語の授業のなかでも、難しい文型や単語があったりすると、教師そっちのけで留学生同士で英語で議論が始まってしまうことも…
日本語教師が授業の中で過度に英語を使うのは円滑な日本語学習の妨げになりますが、教師が英語力を持つことで、留学生が日本語の何につまづいているのかに気づくきっかけをつかむこともでき、結果として彼らの日本語に対する理解を促進させる手助けになるかもしれません。
もちろん授業外で留学生と英語でコミュニケーションがとれれば、関係性の構築に役立つことはいうまでもないでしょう。
英語と対比して日本語を学ぶ学習者が多い
私たちが英語以外の外国語を学ぶとき…
「中国語の単語の語順は英語に似ているな…」
「フランス語のスペルは英語と大体同じだけど、発音は英語とは違うな…」
「ドイツ語の名詞には英語にはない男性・女性・中性の区別があるんだな…」
などと、何かと英語と比較することはありませんか?
日本語を学ぶ外国人学習者もまた同じなのです。
非英語圏の学習者にとって日本語は英語と同じ外国語。つまり、日本語を学ぶ際に英語と比較することが多いのです。
このため、学習者から「日本語の○○は、英語の○○と同じ意味ですか?」などと質問されることがあります。
そのときに教師は「わたしは英語ができないのでわかりません」と片付けるのも方法ですし、「ここは日本語の授業です。英語の授業ではありませんよ。」と言うのも1つの方法でしょう。
もし英語の意味を知っていて「はい、同じ意味です」ということもあり得ますが、本当にそれはあっているのでしょうか、厳密な意味で…。
なかなか難しい問題ですが、英語と比較して日本語の意味をとらえようとする学習者は少なくないですし、英語と対比して日本語との共通点や相違点を見出すことによって、より学習者の理解が深まることも考えられます。
こうした学習者にどう対応するかという観点で、日本語教師に英語力があるとまた違った対応が見えてくるのではないでしょうか。
日本語教師に求められる英語のレベルは?
活動の場所や採用条件等によって求められる英語力は異なります。
日本において英語力を測る指標としては、TOEICが最も一般的です。
就職活動を有利に進めるためにも、計画的に英語を勉強してTOEICを受験し、スコアでアピールできるとよいでしょう。
TOEICにはいくつか試験の種類がありますが、一般の就職活動でTOEICと呼ばれているのは「TOEIC Listening & Reading Test」です。
まずはこれを受験し、必要に応じてスピーキングテストなどにも挑戦してみましょう。
では、TOEICでどの程度のスコアが必要なのでしょうか?
主催団体(一般財団法人 国際ビジネスコミュニケーション協会)の公式発表資料によると、
2021年度の平均スコアは、611点です。
600点は「身近な話題や個人的に関心のある話題についていけるレべル」とされているため、英語力を必須としないフィールドで教える場合、まずは600点を超えることを目安にするとよいでしょう。
ただ、言語を教える職業である日本語教師であるならば、600点は少し寂しい気もしますので、あくまで最低限の目標とし、さらなるスコアアップをめざしましょう。
そして、一般的に英語力があること強くアピールできるスコアは730点です。
これは「どんな状況でも適切なコミュニケーションができる素地を備えているレベル」とされており、英語を仕事で使用する外資系企業などの採用基準といわれています。
英語力が必須とされるフィールドで働くことをめざす場合、730点以上のスコアを獲得することが目標になります。
さらに、英語圏で間接法で教えるとなるとさらなる英語力が必要になり、800~900点以上をめざす必要があるでしょう。
しかし、これはあくまで目安です。いくら英語ができても、日本語教師としてのスキルがなければ意味がありません。
日本語教師としてのスキルを磨きつつ、英語力の向上にも地道に取り組んでいきましょう。
日本語教師が英語力を向上させる方法とは?
日本語教師にとって英語力は強力な武器になります。
ただ、日本語教師も養成講座受講生も、毎日英語漬けの日々を送れるほど暇ではありませんよね。
日本語教師の本業はあくまで「日本語」。
日本語文法の研究も必要ですし、授業や教育実習の準備にも相当な時間が必要です。
そんななかで、独学で英語を勉強するのは至難の業。
それでも、現場で使える英語力を高めるには、生の英語に触れる機会を多く作ることが重要です。
そうすると、やはりおすすめの方法は「英会話スクールを利用すること」です。
英会話スクールというと、授業料がかかるうえに通学が必要なので、敬遠したい人も多いでしょう。
でも、それぐらいのお金と労力をかけないと、そう簡単に語学力が上がらないのは、語学を教える立場の日本語教師ならお分かりでしょう。
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これを機に、英語力の向上に取り組んでもいいかもしれませんね。
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